矢野康治財務事務次官が、
「文芸春秋」2021年11月号に寄稿した論文が話題になっている。
各メディアで広く報道されているので、目にされた方も多いだろう。
諸所の意見があるが、
「不都合な真実から目を背けず、真実をとらえる」という点で、
とても価値のある論文だと思う。
財務次官という日本最高の地位の1つについている方が、
勇気をもってこのような行動をしてくれたことに、
心から敬意を表したい。
どんな問題も、
真実をきちんと捉えて対応するというのは、
基本中の基本だ。
(その基本中の基本を日本の政治が出来ておらず、
財務次官ですらこのような方法で指摘するしかない状況
ということには、
大いなる不安と不満を感じるが。。)
不都合でも真実を見据えること。
真実を見据えたら、万難を乗り越えて、本質的な対策を行うこと。
この2つを、
事業承継問題というテーマで行っているか、
国の財政を預かって行っているかの差はあれ、
当機構の取り組みと根っこは同じだと感じた。
また、対策を考え、実行するにあたっては、
大きな重力を持つ「過去の慣行」や、
「既得権益者」からの反対を乗り越える必要があり、
そこには膨大なエネルギーが必要であるのもまた同じだ。
(矢野氏としても、財務次官としての地位や力をもってしても、
慣行の重力や既得権益層があまりにも強いから、
このような強引な行動に出ざるを得なかったのだろう。)
特に参考になった点につき、同氏の言葉を引用して、
紹介しておこう。
(引用元記事:https://bungeishunju.com/n/n441b267f2218#DdrXb)
①言わぬは卑怯
「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。」
「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」
②このままでは国家財政は破綻する
「私は財政をあずかり国庫の管理を任された立場にいます。このバラマキ・リスクがどんどん高まっている状況を前にして、「これは本当に危険だ」と憂いを禁じ得ません。すでに国の長期債務は973兆円、地方の債務を併せると1166兆円に上ります。GDPの2.2倍であり、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えている。それなのに、さらに財政赤字を膨らませる話ばかりが飛び交っているのです。
あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです。タイタニック号は衝突直前まで氷山の存在に気づきませんでしたが、日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです。」
③成長で健全化、は幻想
「経済成長だけで財政健全化」できれば、それに越したことはありませんが、それは夢物語であり幻想です。わが国は、向こう半世紀近く続く少子高齢化の山を登りきらねばなりません。さらに、これまでリーマン・ショック、東日本大震災、コロナ禍と十数年に2度も3度も大きな国難に見舞われたのですから、「平時は黒字にして、有事に備える」という良識と危機意識を国民全体が共有する必要があり、歳出・歳入両面の構造的な改革が不可欠です。
注:日本の借金は、1950年代から一度も減ったことがないのが事実。
また、今後も、人口は減り続ける一方、
年金や医療負担は高齢化で増え続ける。
つまり、借金は増えるのが普通で、減る可能性はほぼない。
その中で、成長で財政健全化を果たすには、
実数で経済が50%成長する必要がある。
人口が減り、年金や医療費で借金が増える中では、
労働者が体感する実質成長では100%近い成長が必要だろう。
それは、歴史上、人口が減る国では一度も成立したことがない
レベルの成長であり、実現不可能な空想だ。
④言うべきは言う。言わぬは不作為の罪
「このままでは日本は沈没してしまいます。ここは声だけでも大きく発して世の一部の楽観論をお諫めしなくてはならない、どんなに叱られても、どんなに搾られても、言うべきことを言わねばならないと思います。
諸々のバラマキ政策がいかに問題をはらんでいるか、そのことをいちばんわかっている立場なのに、財務省の人間がもんもんとするばかりでじっと黙っていてはいけない。私はそれは不作為の罪だと思います。」
⑤後藤田五訓
「勇気をもって意見具申せよ」
「ただ単に報告や連絡を迅速に上申するだけでなく、それに的確に対処する方途についても、しっかりと臆せず意見を申し述べよ」
ただし、「決定が下ったら従い、命令は実行せよ」
⑥「心あるモノ言う犬」であらねば
単なる“指示待ち”を決め込むとか、下されようとする政治判断に違和感を禁じ得ないような場合でも、黙してただ服従するのは、あたかも中国歴代王朝の宦官であり、無為徒食であり、血税で禄を食む身としては血税ドロボウだと思います。落選するリスクもなく、職を失うリスクにも晒されていない公僕は、余計な畏れを捨て、己を捨てて、日本の将来をも見据え、しっかり意見具申せねばならないと自戒しています。
どれも、まことに正論だ。
だがここで、自身の行動を鑑みてほしい。
この正論を、堂々と、自分の子や孫に向かって言えるだろうか?
口先だけではなく、実際にその言葉通りに、
自分は日々行動できているだろうか?
この論文で問われているのは、
わたしやあなた、
国民1人1人の「行動」ではないだろうか?
『日本沈没』というのは、
色々な意味で、身に迫っている。
不都合だが、真実で、現実の危険だ。
行動出来る人から、
具体的な行動をしよう。