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1ドル500円への備えはあるか?

足元で、ドル円は150円を超えた円安になってきている。150円を超えるのは実に1980年以来32年ぶりであり、2023年初からだけでも20円近く円安に振れていることもあって、気になっている人も多いだろう。主婦の方には、電気代やガス代、輸入食料などの値上がりを通じて、円安の影響を実感されている方もいるかもしれない。為替はマーケットの中でも最も規模が大きく、プレーヤーも企業実需から投機筋、政府に至るまで多種多様で、故に最も読みにくく難しいと言われている。そのため、当機構では為替の予測はしていないし、このブログで予想をするつもりもない。だが、円安が中小企業の経営にも大きな影響を与えうる要因である以上、無視はしていない。そこで今回は、当機構が事業承継を行うにあたって、どのように為替(特に極端な円安に)に対応しているか、その考え方をご紹介しておこうと思う。

第一に、業種別の円安の影響をよく理解して承継することが必要だ。実は、中小企業においても、よい企業は十分な為替変動に対する耐性を持っている企業は少なくない。たとえば内需を対象とするサービス業は、ほとんど為替の影響を受けない。「床屋は輸出できない」という言葉があるが、髪を切るためだけにいちいち外国にいく人はほぼいないことを想像してもらえばわかりやすいだろう。さらに、円安が追い風になる業種もある。もともと世界最高水準の教育水準とおもてなしの精神を持つ日本のサービスが、円安時には外国人観光客にとってさらに割安になるため、付加価値の高いサービスはより多くのニーズをつかむことが可能になる。こういった内需系のサービス業は、円安に対しては耐性が高いと言える。

また、製造業で国際的なバリューチェーンの中で加工を行っているような企業も、耐性がある業種だろう。輸入した製品に加工して付加価値を付けて輸出するという業態であるために為替の影響は相殺されるが、円安で相対的に労働力等が国際市場において安くなり、国際市場における競争力が高まるためだ。

逆に、輸入品を中心として扱う卸・商社などは注意が必要だ。なかでも嗜好品や食料品は、円安を売値に添加すると売値が高騰して需要が国内生産の代替品に移りやすく、結果として需要が急減することが多い。その悪影響は、中小企業1社が超えられるレベルのものではないため、円安が進むと多くの会社が倒産しうる。こういった業種の企業を当機構が承継したケースはまだないが、もし引き受ける場合には、ドル支払、円売上という本質的な決済条件によって生じる為替変動の影響を相殺できるような保険的な金融取引を組み合わせて、承継するだろう。それは、当機構が事業承継プラットフォームを通じて提供している機能の1つであり、金融に通じた財務の専門部隊がいて初めて可能になる(当機構では、大企業で同機能を担っていた経験豊富な人材が、同じ機能を承継先企業に提供している)。だが、1社1社の中小企業ではそれだけの人員をコストを払って抱えるのは、なかなか難しいことだ。

第二に、長期的かつロングテールのリスクを想定し、準備しておくことだ。つまり、表題のように1ドル500円という円安になったときに、①承継先企業で何が起こるのか、②そのとき、何が出来て何が出来ないのか、③何をどの順番で行うべきか、を事前に十分に検討し、対応策を考え、日々訓練しておくということだ。これは、学校等で行う災害対策の避難訓練と似ていると思ってもらえればわかりやすいかもしれない。

誤解を招かないように申し上げておくと、当機構は、1ドル500円になると主張しているわけではない。ただ、もし1ドル500円になったときに、「円安のせいで倒産しました。すみません。」とただ謝罪して終わらせるというのは、当機構が目指している姿ではない(残念ながら、そういう企業は世の中には相当数出てくるとは思うが)。中小企業を承継し、永久に残していくことを本気で目指している当機構では、そのような言い訳は許されない。だから、無責任な結果にならないように、事前によくよく検討し、平時から着々と準備し、日々実行の訓練をしているわけだ。

第三に大事なのが、その問題をどう機会にするか、だ。これは、避難訓練の一歩先にある行動を想定し、準備し、出来るようにしておくことだと言える。1ドル500円になったときには、当然だが他の企業も大混乱に陥る。業界によっては、業界全てが大きな悪影響を受けて、どうしようもない事態になることもあるだろう。その時、どのように承継先企業の雇用と経済を守るのか?

その取組の1例として、たとえば当機構は地域や業種を絞らずに、日本全国の全業種で事業承継問題の解決に取り組んでいる。あるテールリスクのイベントが生じて、ある地域や業種がどうしても立ち行かなくなったとしても、様々な地域で多種多様なビジネスを当機構が承継していれば、一時的に雇用や経済を移すことで雇用や経済を残すことが可能になるだろう。逆に、ある業界の全てが混乱しているときに、外部から追加の雇用や経済の援軍を得られたら、その企業は将来的に大きな成長を遂げることが可能になるかもしれない。これは、当機構のグループだからこそ提供できる非常に大きなメリットになりうる。

これを、規模の経済性という。実効性が出てくるのはもう少し先のことだろうが、5年前には理想でしかなかったビジョンが、現時点ではすでに70億円を超える経済と600名を超える雇用を抱える企業体になっていることを考えれば、将来がとても楽しみだ。これが、当機構が設立当初から5000社という規模の経済性を追求している、大きな理由の1つでもある。

重ねていうが、当機構は金利や為替の予想はしていない(それはシンクタンクの仕事だ)。だが、他社が想定していないようなリスクが生じたときのことを、想定してはいる。そしてその時、どうすればその問題を機会にできるのかを、常に考え、準備し、訓練もしている。「大波が引いた時に、誰が裸で泳いでいたかはわかる」とバフェット氏も言っている。ジムロジャースの言葉を借りれば、「他人からよく私は常に幸運だと言われる。平時から十分に勉強し、正しく備えをして、危機時に果敢に行動すれば、結果は幸運になると決まっているのだが。」ということだ。日本風に言えば、「修羅場での対応で、その人の本質がわかる」ということでもあるだろう。

日本全ての事業承継問題を解決していくために、本物であり続けるための真摯な努力を、今日も本気で続けていこうと思う。

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