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金利7%への備えはあるか?

少し前の5月のことであるが、米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)が、「10年債利回りが6〜7%まで上昇する可能性に備えるべきだ」と発言した。一般の方々にはなかなかショッキングなコメントだったかもしれないが、的を得た意見だと当機構では考えている。当機構は事業承継を行う際に銀行からの融資を活用するため、金利は事業承継の成否を大きく左右する要因である。そこで今回は、当機構の金利に対する考え方について、ご紹介しておきたいと思う。

まず金利について、現状をおさらいしておこう。ここ2年間で、金利は世界中で急上昇している。たとえば、2022年の2月に0.25%であったアメリカの政策金利は、2023年9月に5.25~5.5%になった。2年もたたないわずかな期間に、政策金利が5%以上も急上昇し、16年ぶりの高い水準になった訳だ。ヨーロッパにおいても同様であり、ドイツの10年債の金利は3%を超え、フランスでも同3.5%超となっており、いずれも12年ぶりの水準になっている。日本でも、小幅ながらも上昇傾向にあり、10年債の金利は0.7%を超え、10年ぶりの高水準になってきた。

過去15年ほどの間に、世界の債務残高が2007年の150兆ドルから2022年には300兆ドル超と2倍以上になったことに合わせ鑑みると、この負のインパクトはさらに大きなものになる。債務残高が倍になり、かつ金利が数倍~10倍以上になった結果、債務者にとっての毎年の利払い金額は2年前の数倍以上に膨らんできている。特に信用度の低い債務者にとっては5~10倍超になるケースも少なくないということだ。その利払い負担増の負のインパクトは、実に数10兆ドル単位に上る。日本の国家予算の10倍を優に超える金額が、企業が活動する経済の現場から、銀行や中央銀行といった金融機関に吸い上げられていく方向に、金利が動いているということだ。

さらに不都合な真実が、過去10年ほどの間に、世界中の債務者が「短期かつ変動金利」での債務を増やしたことだ。低金利であった過去10年間においても、その元々低い金利をより低くしてより多くを借りるために、10年の長期ではなく1ー2年毎の短期契約にして、さらに固定金利ではなく変動金利で借りた企業が、多数存在している。特に日本人は変動金利に偏っており、住宅ローンでも日本では7割が変動金利を選択しているほどだ(米国では、9割が固定金利を選択している)。

さて、これを、事業承継のイベントに例えるとどうなるか?事業承継を手掛けるファンドにおいても、返済ピッチを25年超(つまり、毎年元本の4%しか返済しない)にして超長期の融資を得ながらも、目先の金利負担を抑えるために契約期間は3-5年ごとにして、かつ目先はより低い市場連動の変動金利で借りている事例が多数ある。

そのような企業が、米国で現在起こっているような大幅な金利上昇に直面するとどうなるか?事例で説明してみよう。たとえば10億円の借金を、変動金利1%でして、25年での返済ピッチを前提に期間は3年見直しとしたら、最初の3年間での元本返済は1.2億円、金利は約2800万円、合計の資金負担は1.48億円だ。ところが、3年後に金利が5%に上がったら、次の3年間の支払額はどうなるか?元本返済は同じ1.2億円だが、金利は1.23億円に跳ね上がる。結果、合計の資金負担は2.43億円になる。実に6割以上も資金負担額が増加するわけだ。

ここで問題となるのが、10億円の融資を受ける価値の会社において、年間の資金負担額が約1億円も増えるほどの負担増に耐えられるか?という点だ。そのショックに耐えられる企業は、おそらくほとんどないだろう。

さらに不都合な真実として、銀行にとっても、「雨が降ったら傘を取り上げる」ことを考えなければならなくなることだ。銀行としても取引先を支援したいのはやまやまだが、BIS規制や金融庁の検査、預金保護責任、株主への責任等もあるため、融資先の業績が悪化すれば、融資期間を短期化したり、融資金利を引き上げたりして、融資を保全せざるを得なくなる。ただ、それを行うと、融資先にとってはさらに資金繰りが厳しくなり、悪循環が加速する。銀行としてはせざるを得ない行動なのだが、その結果として取引先はより厳しくなり、結果として両者Lose-Loseの結果になってしまう訳だ。その根本原因をつくっているのは実は借り手であり、事業承継のケースで言うとファンドの意志決定なのだ。(そういう意味では、対象企業や銀行は、ファンドの誤った意思決定の被害者だと言えるのかもしれない)。

金利5%の世界など想定していない?だが、実際にアメリカではわずか19カ月で5%上昇している。その事実をどうとらえる?長期的な責任をもって事業承継を行い、長期的に雇用と経済を維持していくために、この程度の金利上昇は「想定の範囲内」とすべきであり、「想定外」と逃げるのは無責任であるというのが当機構の考えだ。銀行員でも金利が高かった時代を知る人は少なくなってきているが、日本でも1974年の長プラは9.9%あったし、1990年にも8.9%を付けていた。2000年頃に2%内外に下落してからは、20年以上にわたってずっと1-2%程度で推移したために、金利は低位で安定しているものと考える方が増えているのは事実だが、世界の歴史を見ればこれほどの低金利が20年以上も続いたことの方が圧倒的な例外だ。異常に低かった金利も、いつかは正常な水準に戻っていく(その過程では、オーバーシュートする可能性も多分にある)。そう考えれば、金利の上昇は当然に想定しておくべき事項だろう。

だから当機構では、融資を受けるときは原則として長期の融資期間を確保し、かつ固定金利で融資を受けることとしている。当然その分目先の金利負担は増えるが、良い中小企業が市場変動要因で突然死する(それは銀行も企業も、誰も望まない結果だ。だが、なる時にはなってしまうし、その大波に抗える力は中小企業それぞれにはないというのが、歴史の教えだ)という突発的なリスクを事前に排除することが、中小企業の事業承継を成功裏に行い、長期的に存続していくために必要だと考えているからだ。また、当機構の協力銀行との関係でも、あとから市場金利が上昇した場合に上記のような問題が発生するリスクを未然に防ぐことが排除できるし(それは中小企業と共に、銀行や銀行員を守ることでもある)、取引開始時から長期固定の相対取引で比較的高い金利をご提供することになるので、協力銀行の業績にもより早く大きく貢献できるからだ。

また、金利が上がるのは、悪いことばかりではない。金利が上がる時は、一般的には経済がよくなっていく時だから、それを収益力向上につなげられるだけの「期間」を確保しておけば、企業にとっては好機になりうる(まして、多くのライバル企業が短期・変動金利の余波を受けて淘汰されていく状況であれば、相対的な競争関係上はさらに好機になるだろう)。また、一般個人にとっても、1000兆円に上る預貯金に対する利息が0.01%から5%になれば、いまの日本の国家予算の半分程度、実に50兆円もの追加的な利息収入が、毎年個人の懐に入ることになる。特に金利収入が生活をささえる面が大きいシニアも、安心してお金を使えるようになるだろう。その結果としてGDPの5割を占める個人消費が大幅に増えれば、日本の景気改善にも大きく役立つだろう。

世界においても日本においても金利が上昇しているが、金利が正常な範囲に戻っていくのは正しいことであり、必要なことでもあるというのが当機構の考えだ。いままで20年以上にわたり低金利が続いた状態の方が、歴史的には異常な状態だった。この金利上昇を、広く・深く・遠くまで考えて読み込んで機会にするか、目先や自分の利益のことだけを考えて問題にしてしまうかは、中小企業のみならず、あらゆる企業の長期的な成否に大きく影響していくことになるだろう。

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