ある承継先企業でご縁があったことから、当機構では、稲盛和夫氏の哲学の勉強をメンバーに推奨している。元々中小企業(いわゆる町工場)からスタートし、多数の問題を乗り越えながらも大企業に成長させた同氏の哲学や経営手法には、中小企業の事業承継を行い、子や孫のために50年100年と残していこうとする当機構においても、大いに学ぶべきところがあるためである。その稲盛氏の哲学を学んでいく中で出てきたのが、本日のテーマである「磁場を作る」ということだ。これは、当機構が構築・提供している「事業承継プラットフォーム®」とも大いに通じるところがあるので、今回は本テーマについてご紹介したい。
まず、磁場とは何か?広辞苑によると、「磁石や電流のまわりに存在する力の場。この場の力線は常に閉曲線となる」とある。わかりやすく言うと、「核」の周りに生じる力であり、場所である。つまり、京セラにおいては「稲盛氏」が核であり、その核である稲盛氏の周りにできた「磁場」にヒト・モノ・カネが集まり、その磁場をより強く大きくすることで、大事業が成し遂げられた訳だ。それは、幸運を得て人生で1度行うだけでも大変なことなのに、稲盛氏は人生で3度も大企業を創り上げもしくは再生した。3度も再現性をもって大事業の経営を行った経営者は、古今東西の歴史を見てもほとんどいない(かの渋沢栄一公くらいであろうか?)稲盛氏はそれだけの大事業家であり、強力な磁場だったのだ。
では、多くの中小企業(当機構自身も含めて)においては、その「核」はなんだろう?多くの中小企業では、おそらく社長であろう。「核」である社長の、「考え方」×「熱意」×「能力」が「磁場」を作る。そして、その「磁場」にヒト・モノ・カネが集まる。それは、稲盛氏であっても、他の社長であっても、同じだ(少なくとも、最初は同じだった)。だが、多くの企業は稲盛氏が創業した京セラやKDDIのような大企業には成長しないし、JALのようにV字回復も出来ない。何が、その差を分けるのだろう?
「心の京セラ 二十年」という書籍(非売品)を頂いて、すぐに3回読んだ。稲盛氏が大卒の時に初めて入社した会社の面接担当者であった方(のちに京セラの社長、会長を務めている)が、京セラの創立20周年を振り返り、自費出版された本である。著者は、京セラの歴史をよく知る内部者であり、また上席の方の目線ですぐ近くから、20年以上にわたって稲盛氏のことを見続けてきた方だ。その方が書かれた本を読んで、その差と言える大事なことが3つあると感じた。
1つ目は、稲盛氏が掲げた「考え方」×「熱意」×「能力」の3要素の内、圧倒的に大事なのは、「考え方」だということだ(稲盛氏も多くの著書でこの点をたびたび強調している)。どういうことか?他の2要素は数字だが、考え方は「+」か「ー」という方向性であるからだ。つまり、プラスの方向で熱意10と能力10をかけ合わせれば、その数値は+1×10×10=プラス100の力を生む。ところが、熱意と能力がその10倍の100ずつだったとしても、考え方がマイナスの場合は、ー1×100×100=マイナス10000の力となってしまうからだ。同じ熱意と能力を集めても、方向性が違うだけで、まったく違う結果になってしまう。それは、よく切れる包丁で料理を作れば大変美味しい料理ができるが、逆に殺人に使えば悲惨な結果になってしまうのと同じだ。包丁が悪いのではなく、使うヒトの方向性によって、結果は大きく変わるということだ。
2つ目は、相乗効果だ。核となる最初の磁場が強力でかつ正の磁場であれば、自然と正のヒト・モノ・カネが集まり、その正の磁場はますます強く大きくなる。そして、磁場が集まれば集まるほど同じ方向性が強化され、ますます同じ方向への運動に慣性が付いて加速し、かつその重力が増えてエネルギーは乗数的に拡大する。雪だるまと作る時と同じだ。最初に固いしっかりした核をつくり、正しい長い下り坂を見つけて転がせば、あとは勝手に転がって、自然と大きな雪だるまができるようなものだ。(磁石を見ればわかることだが、強力な正の極には、多くの負も集まってくる。だから、負の人を外し、避け、やり過ごす力もまた、大事な要素だろう。負が集まるのを避けていては、大きくはなれないからだ。)
3つ目は、「核がブレない」ことが重要だということだ。上記の広辞苑の定義にもあるが、「力線は常に閉曲線となる」とある。わかりやすくいうと、ヒト・モノ・カネからなる事業の根幹にある企業文化や哲学において、「選択と集中」を徹底し、かつその基準を長期間変えない、ということだ。核がブレれば、力線がずれる。力線がずれれば、境界は弱まる。境界が弱まれば、決壊しやすくなる。稲盛氏が経営していた会社にも、多くのトラブルがあり、多くの失敗もあった。多数のライバルとの競争もあった。だが、特筆すべきは、成功したときも失敗したときも、稲盛氏は常にブレずに、20代の頃から完成度の高い哲学と理念をもって、同じことを言い続け、約70年にわたって真摯に事業に取り組み続けた。
これが、どれだけ奇跡的なことか?事業家でも政治家でもスポーツ選手でも、ある分野で一時的に名を上げる人は、星の数ほどいる。だが、同じ業界に10年残り続けられる人は、ほんの一握りだ。なぜかというと、成功体験はそれ自体が大きなエネルギーであり、エネルギーを得れば人は(というよりも、物理法則上あらゆる物質は)変わってしまうのが原理原則だからだ。
大事なのは、その原理原則に逆らえるくらい強い哲学を持ち、その当たり前に流されないだけの日々の行動を現実に行わないと、あっという間に原理原則の激流に飲み込まれて人は変わってしまう。初志貫徹というのは、それだけ難しいことなのだ。まして、その初志が大きければ、なおさらだ。それを人生通してやり遂げられる人は数少ないのだろう。そして、それを成し遂げた数少ない方の1人が、稲盛氏だったということなのかもしれない。なにせ、10年でも難しいことを、約70年にわたって1人の個人が行ったのだ。
当機構が取り組む事業承継問題においても、まさに大事なのはこの「核」と「磁場」の関係を理解し、維持することだ。なぜかというと、社長が交代するというのは、磁場から見ると人為的に「核」を変えることになるからだ。それは、当然に力線を変え、安定性を失い、崩壊の危険性を高めることだ。だが、核である社長の生命が有限である以上、ある日突然に核が変わるよりは、自らの意志と協力の下で核を交代させた方が、交代の成功確率は上がる。その成功確率をさらに上げるための100以上の仕組みが、当機構が提供している事業承継プラットフォーム®である。
事業承継問題への取組とは、本質的に「原理原則」に逆らうことだ。だからこそ、非常に困難だ。だが、困難なこととやらないことは別のことだ(稲盛氏も困難に挑戦し続けた方だった)。困難さを十分に理解したうえで、それでも世のため人のために必要なことならやると覚悟を決める。あとは、どれだけの困難や苦労があろうと、結果を出すことだけを見て努力し、挑戦し続ける。その点では、当機構は方向性としては稲盛氏の哲学に沿っているのかもしれないと、うれしく思った。
余談だが、「全地球史アトラス」という、地球の46億年物語を1時間にまとめたYoutube動画がある。過去から未来までの広く、深く、遠い世界観を持つにはとてもよい動画なので、関心がおありの方はぜひご覧いただきたい。この中でも、実は「磁場」の生成と崩壊が、すべての生物(人類を含む)の誕生と絶滅、そして進化に大きな影響を及ぼしたことが、科学的な根拠と共に繰り返し示されている。
「磁場」とは、空気に似ている。目に見えず、普段は意識することもないが、ないと命にかかわるものだ。そして、当機構が提供する事業承継プラットフォーム®も、また同じ。目に見えないかもしれないが、世の中を支える重要な黒子として、これからも多くの中小企業の事業承継問題解決のために、強化と拡大を続けていこうと思う。