久々に良書に出会った。
この半年で5回ほど読んだが、
中小企業の承継、経営においても役立つことが多く、
読むたびに違う気付きが得られる本だ。
後継者を志す方には、ぜひご一読いただきたい。
今回は、その中から特に中小企業の経営に関連するところをご紹介したい。
たとえば、下記だ。
1.9割はガラクタ、5秒で捨てる
中小企業の経営においてもっとも大切なのは「優先順位をつける」ことだ。
中小企業では、ヒト・モノ・カネ・情報のすべての資源が、いつも不足している。
不足が常態であるなかでやりくりするのが、中小企業の社長の仕事だ。
(それは、資源に余裕がある大企業の社長の仕事とは、似て非なるものだ)
そのためには、9割はガラクタと理解し、5秒で取捨選択することが重要だ。
日々、重要な1割は何かを考え、そこに資源を集中させる。
日々判断しながら、長い目線で続けていく。
だから、マクロでみる統計とは異なり、
当機構が承継するような中小企業各社の経営効率は、
意外と大企業よりも高いことが多い。
足りない中でやっていれば、効率は自然に高くなるためだ。
ここは、大企業の出身者は、往々にして間違えやすい。
大企業には、ヒト・モノ・カネ・情報のすべてが余っているのが常態だからだ。
(時には内部の権力闘争に明け暮れて自家中毒を起こすくらい、
資源が余っているのが大企業だ)
大企業では、優先順位をつけずにやろうとしても、資源の力で出来てしまう。
優先順位をつけずに取り組む結果、効率が悪い企業も多い。
余裕がありすぎるのも、考え物だ。
かのスティーブ・ジョブズも、部下とこういったやりとりを残している。
「今のアップルに必要なことを10上げろ。」
(部下が10を上げると、、、)
「よし。1と2と3をやる。一度に出来るのは、3つまでだ。」
当時のアップルは、既に従業員が1万人を超える大企業だった。
日本の大企業と比べると極端に見えるほどの優先順位のつけ方が、
大企業のアップルを世界企業のアップルにした、
理由の一つでもあるろう。
2.修正力>計画力
元パイロットでもある著者の下記の問答は、説得力がある。
「飛行機が計画通りのルートを飛んでいる時間は?」
「ほぼゼロだ」
飛行機は、人と機械の力で常に微修正しながら、
計画に沿ってルートを飛んでいる。
だが、ルート上をぴたりと飛んでいる時間はほぼゼロであり、
常に上下左右にずれたのを修正しながら飛んでいるという。
これも、中小企業の経営で大切なことだ。
計画は、大きな方向性や工程を創るために、必要だ。
だが、一度策定したら、その計画を目安として、
日々「修正」しながら経営していくことの方が、より重要だ。
大企業で行われがちなように、
計画を微に入り細に入り調整して念入りに策定したり、
日々修正する必要はない。
そもそも、計画を完璧に達成できる会社があったとしたら、
それは十分な挑戦やストレッチをしていない証拠だ。
(これも大企業にはよく見られることだが。。。)
計画では大きな方向性を、
複雑系の概念で言う「カオスの淵」ぎりぎりの質・量で打ちだし、
日々その達成に向かって修正し続けること、だ。
3.実行>アイデア
「アイデアは無価値。価値を生むのは実行力だ」
ネット社会を中心に情報過多になった現代では、
アイデアはいたるところに転がっている。
自分で考えるというのは尊いことだが、
最も難しいことでもある。
その難しいことをするには、余裕がいる。資源もいる。
そんな贅沢をする余裕は、多くの中小企業にはない。
たとえ困難を承知でやったとしても、
資源に優れる大企業に焦土化作戦をされたら、
簡単に追いつかれ、負けてしまう。
同じ方法で挑んでも、勝ち目は少ない。
アイデアを自ら考える贅沢にふけるよりも、
既存の情報の中から良いアイデアを見つけ、
一番うまく実行することに力を注ぐべきだ。
創意工夫をするなら、
アイデア出しではなく、
実行段階でするということだ。
当機構の書籍でも紹介しているたが、
Googleは12番目の検索エンジンだった。
Facebookは10番目のソーシャルネットワークだったし、
ipadは20番目のタブレットだった。
アイデアよりも実行に価値があることを表している、
好例だろう。
アイデアは、世の中にすでにたくさん溢れている。
大企業だって、お互いにアイデアをパクりあっているのだ。
自分で考えるよりも、探して来ればいい。
(ググれば、多くのアイデアがすでにそこにある。
英語や中国語で調べれば、
日本語で得られる100倍のアイデアに触れられる)
中小企業は、
見つけたアイデアをどう実行するか、
どうビジネスにするか、
そこで勝負すべきだ。
実行段階では、大企業よりも中小企業の方が有利な点もたくさんある。
資源の限られた中小企業こそ、
勝ち目の高いところで、勝ち目の高い方法で戦うことだ。
4.負けない>勝つ
勝負は興奮と感動をもたらす刺激的なものだが、
中小企業では可能な限り避けた方がいい。
大企業なら、勝負して負けても、
余裕があるから大事にならない。
だが、資源に余裕がない中小企業では、
一度の負けが企業の生死につながってしまうことが多いためだ。
それを、大企業と同じように考えて大勝負すると、
勝てばよいが、万一負けたときに困ることになる。
それでも勝負するなら、
負けても潰れない準備を周到にして、
その範囲で勝負することだ。
ユニクロを創った柳井氏は、『1勝9敗』という著書を書いている。
1度勝つには、10回戦えるように準備し、
もし9回負けても生き残れるように勝負するということだと、
私は理解している。
また、かの松下幸之助も
「成功するには、成功するまでやることだ」
という言葉を残している。
ただの精神論ではなく、
「成功するには、成功するまでできるように万全の準備をして挑め」
ということだろう。
周到な準備には、時間も労力も必要だ。
それをさぼり、
「イチかバチか」にかけて勝負するから、
多くの企業は敗れるのだ。
時には勝負も必要だが、
中小企業にとって負けないことは、
勝つことよりもはるかに重要だ。
5.能力の輪に留まる
最後に、能力の輪の紹介をしておきたい。
資源が少ない中小企業では、
資源が余っている大企業と比べると、
圧倒的に能力の輪が小さい。
また、輪を大きくしていくために必要な、余剰資源もない。
それでも輪を大きくしていこうとすると、
事業問題以外に資源問題も抱え、
2重の問題を自ら抱えることになる。
新たな事業を開拓するのは、
資源に余裕がある大企業でも難しいことだ。
それを出来る中小企業は、数少ない。
数少ないし難しいから、それを出来た企業が新聞記事になるのだ。
それは素晴らしいことだが、
陰でその数百倍の企業が失敗していることは、決して記事にならない。
それよりも、自社が確立している能力の輪に留まる方がいい。
そのためには、無理に成長しようとしない、成長を前提としない、
ことが必要だ。
全ての企業が急成長してIPOしなければならないというわけではない。
資本主義の行き過ぎもあって、
「会社を創ったら急成長してIPOを目指す」
かのような幻想が広がっているが、そんなことはない。
自然の中には、大きくなる木もあれば、小さいままの木もある。
そして大きな木とは別の方法で、小さい木も世の中の役に立っている。
その小さいままあるべき木を、
無理に大きくしようと引っ張ったら、ポキンと折れてしまうだけだ。
「成長を前提としない」ことは、
根本的に資本主義に逆行することでもある。
そのため、簡単なようで、実はとても難しいことだ。
(だから当機構では「事業承継プラットフォーム」を通じて、
承継先企業にこの基盤を提供している)
中小企業で、大企業と同じことをする必要はない。
同じことを目指すのが、正しいわけでもない。
中小企業にとって、
能力の輪を見極め、
その範囲に留まって生きていく道を見つけることは、
大企業よりもずっと重要だ。