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コロナと事業承継

ついに、コロナが我が家にもやってきてしまった。この2年強の間、念には念を入れて気を付けることで逃れてきたが、娘が行っている保育園で感染が広がり、まず娘が陽性になった。そして、その看病をしていたことにより、両親共々罹患したようだ。このような家庭内感染は、正直防ぎようがないと感じた。なにせ、娘はまだ3歳に過ぎない。しかも、夜中も40度の高熱で苦しんでいた。それを1人で隔離しておくことなど、おそらくどんな親にも出来ないだろう。たとえ、それで感染したとしても、それは仕方のないことだと腹をくくった。世の中には、私以外にも、きっと同じような状況で、仕方なく感染してしまった方も多いだろう。自分がかかってみて、改めて思った。

私自身は、1晩は40度近い高熱が出たが、その後は幸運なことに何もなかった。2日目には熱も下がり、病院で診察を受けて薬をもらってからは特に変わった症状もなく、無事に10日間の待機期間を乗り越えることが出来た。念のため、待機期間終了後にPCR検査も受け、「陰性」との結果も得られたので、一安心。当機構設立から4年ほどの間、無休で突っ走ってきたこともあり、コロナで10日間休まざるを得なかったのは、ある意味よい休暇にもなった。

さて、コロナに関しては、「コロナが事業承継に与える影響はなんですか?」という質問を受けることが多い。そこで、今回は私自身の経験も含めて、コロナが事業承継に与える影響について書いておこうと思う。

コロナが事業承継に与える影響は3つある。すなわち、①突然死の増加、②諦め廃業の増加、③不作為による子や孫への悪影響、だ。1つずつ見ていこう。

まず、①の突然死は、コロナが直接的な業績悪化原因となり、廃業・倒産するパターンだ。データの網羅性・正確性にはやや疑問があるが、ネットで検索すると、たとえば帝国データバンクは新型コロナウイルス関連倒産件数を2022年8月時点までの累計で3917件と発表している。そのうち、約3割を飲食店や、建設・工事関連企業が占めているようだ。皆さんも、コロナ下で外食機会は大幅に減っただろうし、見知らぬ人が自宅に大勢入って密な環境で行う工事も出来る限り避けただろうから、これはコロナの直接的な影響としてわかりやすいパターンだろう。ただ、同社発表の2021年の「休廃業・解散」の件数が4万4,377件であることに鑑みると、コロナによる同年の廃業・倒産は1769件とわずか4%弱に過ぎない。数字的にその影響が軽微なように見える点には、違和感を感じる(1都道府県あたり38件弱/年という数字を、皆さんはどう感じるだろう?)。感覚的にはその数倍ある気もするので、データと現実の間には誤差があるかもしれない。また、2021年の件数は2020年(4万9,698件)から10.7%減少もの大幅減となっていることに鑑みると、いわゆるコロナ予算や補助金により、ゾンビ化して少しだけ延命している企業も相応に残っている可能性がありそうだ。これらのゾンビ企業が、今後の数年で廃業・倒産数を押し上げる可能性はあるだろう。ただ、このコロナの影響で突然死する企業の問題は、事業承継問題ではなく、事業そのものの問題であり、事業承継とはあまり関係のない問題だと考えている。

それよりも、②の諦め廃業の増加が、事業承継においては問題だ。これは、もともと堅調に事業を行っており、長年利益も上げており、財務的にも余力がある企業が、コロナをきっかけとして自ら廃業するパターンである。優良企業の中にも、事業承継問題を抱えている企業は多数ある。そして、これらの企業は、過去の蓄積による余力もあるから、かえって「いまならまだ他のヒトに迷惑をかけずに閉められる」と早期に諦め、キレイに廃業することを選択することができる。このように、いまも価値ある製品やサービスを提供している優良企業が、ある意味「コロナをきっかけとして」、まだ余力があるにも関わらず、廃業を選択してしまうのが、この諦め廃業のパターンだ。この優良企業の廃業は、実は数字で見えにくい。なぜかというと、もともと債務がなかったり、あっても債務を全てきれいにしてから廃業の手続きを行うので、裁判等を通じて公になる機会が少なく、外から情報を把握するのが難しいからだ。だが、これらの企業が、実は我々が子や孫の未来に残したいと思っている企業であることは多い。なぜかというと、いまも価値を生んでいる企業を閉めてしまうことは、現オーナー個人にとってはそれが最適なのかもしれないが、子や孫の未来まで含めた日本国や社会にとっては、大きな損失になるからだ。部分最適と、全体最適とが、大きく乖離してしまうという点に、大きな問題があるのだ。

その部分最適と全体最適の乖離が、③「不作為による子や孫の世代への悪影響」だ。どういうことか?2つ例を挙げて説明しよう。

1つ目としてわかりやすいのは、有名なマイケル・サンデルハーバード大学教授の「トロッコ問題」だろう。それは、こういう問題だ。

制御不能になったトロッコが、猛烈なスピードで走っています。疾走するトロッコの先には、線路工事をしている作業員が5人います。運転士であるあなたは、左側の待避線にトロッコの進路を変更できます。そうすれば5人の命を助けられます。しかし待避線には1人の作業員が工事をしていて、今度は彼がトロッコにひかれて命を失うことになるでしょう。 あなたなら待避線に入り、1人を犠牲にして5人を助けるでしょうか。それとも待避線には入らず、5人の命を奪うでしょうか。もう時間がありません。あなたはどちらを選びますか──。

この問題は、哲学の問題として例示されているが、実は「不作為」の問題でもある。つまり、①あなたが何もしなければ、5人が死ぬ。②あなたが線路を切り替えれば、1人が死ぬが、5人は助かる。その時、あなたは行動しますか?しませんか?という問題でもあるのだ。

そして、これは実は、事業承継問題の本質に非常によく似ている。どういうことか、ここで2つ目の例を挙げて説明しよう。あなたが、地方で30人の社員を抱える、自分の一代で築いた中小企業の社長で、跡取りがいない70代であると想定してほしい(特別な例ではなく、現実によくある例だ)。コロナの影響で、2021年の会社の損益はマイナスになってしまった。2022年も赤字見込みで、2023年は頑張ればなんとかトントンくらいかもしれないが、確実ではない。自分ももう年だし、毎日の仕事もしんどくなってきた。跡取り問題も解決策が見えず、頭が痛い。過去の蓄積のおかげで、会社には借金はなく、10億円の現金はある。しんどい思いを続けるくらいなら、いっそ清算してしまおうか・・・?

さて、あなたはどうしますか?①従業員の生活や取引先との取引を守るために、損益トントンでも、先が見えなくても、挑戦する。挑戦して失敗したら、いまある現金も失い、最後は他に迷惑をかけることになるかもしれないが、そのリスクを背負ってでも、なんとか事業を継続する方法を探す、②いまなら、現金を取引先や従業員に分配すれば、金銭的に迷惑をかけることはない。自分も、そこそこ裕福に生きていける。体もしんどいし、もう限界なので、廃業する、③何もしない(ただ、惰性で続ける)。

どれかが、絶対的な正解ということではない。また、①から③以外にも選択肢はあるだろう。だが、ここで考えてほしいのは、「思考停止になってなにもしない」という不作為にも、自然の結果として必ずその結果が伴うということだ。雨が降っているからと言って春に種まきをしなければ、秋になっても収穫が出来ないのと同じだ。どの選択肢をとっても、かならず子や孫の未来には、影響を与える。だから、せめてそこには、「広く、深く」だけでなく「遠く」の未来まで真剣に考えて、自分の選択をしてほしい。

そして、①の選択肢を選ぶ方には、我々にお手伝いできることがあるかもしれない。我々は、常にそういう方々のお手伝いをするべく、準備を整え、体制を充実させて、子や孫のために中小企業を残すことに全力を費やしているからだ。

コロナはまだしばらく続くだろう。戦争も続きそうだ。他にも、今後もいくつもの危機が来るだろう。だが、我々は、どんな危機も広く、深く、遠く想定し、日々怠ることなく備えを整えている。そして、引き継いだ中小企業とともに危機を乗り越えていくつもりだ。そのために、今日も全力で活動をしていこうと思う。

すべては、子や孫の未来のために。

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