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新しい資本主義と事業承継

先日、新しい資本主義について、様々な企業のリーダーと話し合う機会があった。きっと皆さまのご参考になると思うので、今回はその内容の一部をご紹介したい。

そもそも、「新しい資本主義」とは何だろうか?現時点ではコンセプトに留まっており、その具体像については政府も模索している状態であるようだ。特に、なにが新しいのかは、定義すらまだはっきりしていない(将来的にはっきりするのかどうかも不明だ)。今の資本主義に行き詰まりを感じている方が多いので、政治的に現政権が「新しい」という言葉を使って、とりあえずキャッチコピーにしたというのが事実に近いところだろう。

だとすると、「新しい」を考えるまえに、いまの資本主義が行き詰まっている「原因」が何なのかを特定することが、具体的な第一歩ではなかろうか?医者が患者を診るときと同じで、症状を特定してから薬を出すべきであり、症状を特定せずにやみくもに薬を出しても効果はないからだ。

ここからは私見であるが、現代日本における資本主義は、大きく下記の3つの課題を抱えている。「今だけ、金だけ、自分だけ」という課題だ。そして、その3つがどれも事業承継問題を引き起こす根本的原因になっているところが、事業承継問題のやっかいなところだ。

まず第1に、「今だけ」。これは、資本主義の頂点に立つ株主が利益を求める時間軸が、どんどん短期化ていることを意味する。上場企業の経営者の義務の変遷を見ると、わかりやすいだろう。50年ほど前までは、日本の経営者の多くが創業者や創業家出身者であった。つまり、経営者=株主であったのだ。そして、経営者=株主の構造下では、短期利益よりも長期利益を目指す方が公益に叶い、また自社の利益にも高確率でつながるため、経営者=株主は10年20年単位でビジネスを行い、長期的な利益を追求することが出来た。経営者=株主の時代には、公益やSDGsなどと言わずとも、公益に叶う形で長期利益を目指すことが、多くの会社で自然に出来ていたのだ。

ところが、だんだんと代が変わり、経営と所有の分離が為された。株主である機関投資家も、企業の経営者も、どちらも任期数年のサラリーマンが主流にになっていった。サラリーマンは自分の任期中に結果を出す必要があり、任期後のことには動機を持たないため、資本主義の時間軸はどんどん短期化していった。さらに、「説明責任」いうお題目のもとに、半期利益や四半期ごとの利益開示やIRなどが義務として課され、経営者はより短期的な利益追求を求めるプレッシャーにさらされるようになった。カネ余りで実業ではなく金融が主役に躍り出てきたこともあり、アクティビストのように極端に「いまだけ、カネだけ、自分だけ」を追求するファンドも、今や合法となり、大手を振って活動するようにまでになってしまった。

今の大企業の経営者が受ける利益達成のプレッシャーは、年々増えている。そのプレッシャーは、企業経営をより短期視点にさせ、より一層の「今だけ、金だけ、自分だけの」利益を求めさせる。それは、アクティビストのようなファンドにとっては「成功」につながるために、より多くの資金が集まり、より多く、より強いプレッシャーになるという悪循環に入ってしまっている。今の上場企業の経営者の苦労は、10年前の経営者の何倍にもなっていることだろう。アクティビスト等に狙われた企業の経営者の苦悶は、気の毒なほどである。

ただ、現代においても、経営者=株主であるオーナー企業はある。たとえばファーストリテイリングや日本電産などだ。そして、こ企業の企業の経営成績が良いのは、このプレッシャーが少ないという環境的なアドバンテージがあることも大きい。自らが経営者として行う長期判断を、自ら株主として擁護することが出来るからだ。

ただ、すべての企業を創業家支配に戻すことは、現実的ではない。それが正しいわけでもない。では、なにが解決策になり得るか?現実的な解決策の1つが、「長期投資」だ。資本主義は、株主がもとめることが、主義になる。(私見だが、資本主義とは、天気みたいなものだ。新しい、古い、と明確に2つにわけれられるものではなく、常に変動している。昨日の資本主義と今日の資本主義は異なるし、明日が同じとも限らない。天気と同じく、毎日異なるのだと思う。)その株主が、短期利益ではなく長期利益を求めれば、会社の経営者は長期的な目線で、長期的に正しい行動をとりやすくなる。結果、公益にも長期的に正しい、あるべき資本主義の形をつくる大きな力になるだろう。

ただ、残念ながら「長期投資」は現代の「今だけ、金だけ、自分だけ」の資本主義の真逆を志向しており、理想としては正しくとも目先の「カネ」にならない(長期的にはなるのだが。。)ため、時価総額比では全部合わせても5%にも満たないマイノリティーに甘んじている。これでは、社会を変えるには力不足だ。ここは、当機構の兄弟会社にあたるさわかみ投信をはじめ、長期投資家勢の一層の奮起を期待したい。

第2に、「金だけ」。これも、所有と経営の分離が行き過ぎるところから生じる弊害でもある。機関投資家やファンドは、その元々の生い立ちから「金だけ」を追求するように設計されている。誤解を恐れずに言えば、真面目な人が真面目にやればやるほど、「金だけ」を追求するようになってしまう。これは善悪の問題ではなく、根本的な設計の問題なのだ。

その結果、どうなったか?たとえば、企業で働く社員の心身の健康のための福利厚生施設や、企業内でのクラブ活動は、多くの企業で閉鎖された。株主の利益になるものとは説明しにくいからだ。また、たとえ大企業のトップであったとしても、一存で地域や文化のためのメセナ活動に資金を投じることが出来なくなった。それなら株主に配当せよと言われると、トップとしては抗弁できないからだ。

その結果、何が起こったか?昔の日本企業の社員が持っていた会社へのロイヤリティは、いまやほとんどの大企業でなくなった。部門や職位の壁を越えたインフォーマルコミュニケーションの場がなくなった結果、会社の一体感も大きく失われた。全体最適を目指す環境が失われ、個別最適を追求する動機ばかりが増えた結果、見えやすく説明しやすい「自分の数字」「自部門の利益」だけを求めるようになってしまった。カネに見えないが大事なものが、どんどん失われていったのだ。

さらに、目先のカネだけを求めるもっとも大きな弊害として、将来への投資が大きく削減された。不確実性の高い、将来に利益を生むための研究開発投資や人員への教育投資は削減され、目先に利益になるところにばかり資本が投下されるようになった結果、日本企業の競争力は日に日に落ちていった。その結果は、機関投資家自身のクビも絞めることになる。自らが真面目に働いたために、「もはや日本企業に投資できる先は少ない」環境を作り出してしまい、海外企業への投資を増やさざるを得なくなった。

だが、ここでよく考えみてほしい。日本の国富の代表的な年金を扱う機関投資家が、その国富を日本の企業ためではなく、ライバルである中国やロシアの企業に「いまだけ、カネだけ」を求めて投じることが、日本の子や孫の未来のために本当になるのであろうか?それは、敵に塩を送り、自らの子孫を窮乏化させる、100年後に歴史を振り返れば大きく誤った行動なのではなかろうか?現代資本主義が最も体現されているアメリカにおいて政治主導で発生している、アメリカファースト、バイアメリカン、メイドインUSなどの行動は、これらの弊害に気付き、改善しようという行動にも見える。日本もいい加減、「グローバル資本主義」という耳障りのよい標語の弊害を、よく考えるべき時かもしれない。「誰がカモなのかわからないなら、自分がカモだ」というは、ゲームの鉄則だ。日本は、自己満足している間に、大きな落とし穴にはまっているのではなかろうか?

第3に、「自分だけ」だ。これは、今だけ、カネだけ、の利益追求がなされた結果、2次的に生まれた弊害とも言える。今だけ、カネだけ、のプレッシャーが高まれば高まるほど、隣人のことや将来のことを気遣う余裕はなくなり、「自分だけ」になるからだ。そして、自分だけのことを追求すれば、その当然の結果として、環境問題や格差問題が生じる。SDGsなどの標語も出来ているが、「いまだけ、カネだけ、自分だけ」を求める強烈な資本主義の活動を、標語だけで止められるわけがない。もしその方法で止めたいなら、行わない企業には多額の懲罰的罰金を科すなど、リアルに「損する」ところまで規制しないと、面従腹背の状態を引き起こすだけで、資本主義の営利活動は減速すらしないだろう。

そして、事業承継問題は、この「今だけ、金だけ、自分だけ」という資本主義が、見捨てたところにある。マザーテレサのいう「愛の反対は、無関心です」というところの、無関心の世界にある問題なのだ。なぜかというと、「カネにならないから」。だから、資本主義の欲望の神の手は、いつまで経っても届かないのだ。この状態は20年前から続いており(事業承継問題は、最近の新しい問題ではなく、ずっとある問題なのだ)、いまのままなら今後20年も続くだろう。ただは、過去20年はそれでもまだましだった。50歳の創業者が70歳になっただけで、まだ生きているからだ。だが、ここから20年たつと、多くの方が平均寿命を超えることになる。何の対策もなく創業者兼社長が寿命を迎えれば、その企業は、同時に寿命を迎えることになるだろう。そして、日本の全企業の1/3が、事業承継問題を抱えている。これは点の問題ではなく、面の問題だからだ。この1/3の企業は、中小企業とはいえ、日本の雇用と経済の2割を担っている。だから、これらの企業が失われれば、その雇用も経済も、技術も文化も、支えられている多くが同時に失われていく。そうなれば、当然国も、大企業も、無傷では済まない。国民であるあなた自身にも、当然にその問題は降りかかってくる。

だからこそ、我々は事業承継問題の全面的解決に取り組んでいるのだ。
そして、その取組のキーワードは、二宮尊徳翁が残した言葉にある。

「昔より、ひとの捨て去るなきものを、拾い集めて民に与えん」

「最も利益の多いのは、真の利益ではない。真の利益は、最も利益の少ないところにあるものだ」

相場の格言にも、こんなものがある。

「人の行く、裏に道あり花の山」

これが、我々が資本主義とは一線を画したソーシャルビジネスとして取り組んでいる理由でもある。

そういえば、面白いことをいう人もいた。

「貨幣に名前を書いて遣わせたら、役立つかもしれない」

貨幣にトレイサビリティーを持たせるということだが、面白いアイデアだ。
恥の文化を持つ日本人なら、たしかに自分が何にいくら使ったかが世に知られる尾すれば、使う時に正しく使うことを考える動機になるだろう。
現実的に紙幣に名前を書くのは法で禁じられているが、仮想通貨にならいくらでも名前を書き込めるかもしれない。
我々の「事業承継未来ファンド」の投資家に、その投資への感謝状等を出すことで、名前を書き込むのと同等の効果を得られるかもしれない。

色々な方法があるだろう。

次回、6/15の支援者の会では、日本の資本主義の父と言われる渋澤栄一氏の玄孫にあたる渋澤健氏を招いて、
同じ「新しい資本主義と事業承継」をテーマに、当機構相談役の澤上篤人を交えての講演、対談を予定している。

リアルとZoomセミナーの両方で同時開催するので、ぜひ多くの方にご覧いただければと思う。

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