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永久保有って、本当に出来るの?

先日、ある証券会社の幹部の方とお会いしたときに頂いた質問が、本日の表題だ。聞けば、その会社の中でも多くの社員が、「本当に出来るの?なぜ?一体どうやって?」と疑問に思っているらしい。金融界に生きる方が疑問に思っているということは、きっと、読者の皆様にも疑問に思っている方も多いことだろう。だから、本日はその疑問に答えようと思う。

結論から言うと、永久保有は出来る。ただし、それはヒマラヤ登頂や深海探索、火星への飛行もやれば出来る、というのと同じレベルの「とても困難だが不可能ではない」という行動であり、誰にでも出来ることではない。特に、それは強欲資本主義に真正面から対峙する行動なので、資本主義の中ではとても困難なことだ。

その永久保有を実現するには、3つの大きなポイントがある。永久保有は、その3つをクリアして初めて出来る事だ。そして、当機構はその体制を築いたから、永久保有を掲げることが出来るのだ。その3つとは、①短期でラクな利益を求めないこと、②自分だけよければよいという行動をしないこと、③人生をかけて真剣に、かつ多くの武器をもって賢く、経営することだ。以下、順を追って説明しよう。

まず、①短期でラクな利益を求めないこととは何か?事業承継業界の2大資本主義プレイヤーである「ファンド」と「M&Aアドバイザー」は、ここに入る。その他、上場事業会社等を含む多くの資本主義プレイヤーもそうだ。たとえばファンドは、ファンド投資家の短期利益の最大化を求めるから、「転売」が大前提となっている。永久保有など、そもそも仕組上、絶対にできないわけだ。では、「M&Aアドバイザー」はどうか?M&Aアドバイザーは、そもそも事業承継問題の解決者ではなく、仲介者だ。いわば、自分で何かをするのではなく、解決者につないでリスクフリーで口銭を得るのが役割で、「株式の取得」すらそもそもしない。だからM&Aアドバイザーも、永久保有など、絶対に出来ない仕組みだ。では、「事業会社」はどうか?事業会社は、株主=経営陣という高いレベルで密に事業目的に一致していれば、永久保有の主体になり得る。(だから、当機構は、株主が永久保有にコミットしたうえで、事業会社としての形式で運営している)。だが、これが現実にはとても難しい。普通の企業は(特に上場企業は)、ごく一部を除いて、株主=経営陣ということはありえない。(そもそも東証規則上、そういう企業は上場できない)。多くの企業では株主と経営陣は別だ。そして、経営陣は株主の短期利益のために、相手のことではなく自社のことを考えて行動しなければならない責任を、法的に背負っている。つまり、これも可能性はあるが、実現するには大きな仕組み上のハードルがあるわけだ。だから、資本主義の世界で生きている人には、まず「永久保有など無理でしょ?」となる。資本主義の仕組の中では、仕組的に出来ないからだ。特に、株主が短期利益を求める強欲資本主義の中では、なおさら困難だ。

なら、どうすればいいのか?答えはシンプルだ(決して簡単ではないが)。要は、資本主義の外に出ればいい。「自社の利益の最大化」という仕組みの外に出ない限り、この呪縛からは逃れられないのなら、その外に出ればよいのだ。資本主義の外で、私益よりも公益を追求する仕組で取り組めばよい。

ただ、公益と言っても、これがまた難しい。たとえば、逆に利益を無視して、数億程度の小金で小規模のNPO活動をいくら「清貧」の姿勢で行ったところで、それは日本の事業承継問題の全面的解決にはならない。1社や2社だけ手掛けたところで(それはそれで大変なことなのだが)、日本全体から見れば大勢に変化はなく、下手すると自己満足行動に終わるだけで、子や孫の未来はほとんど変わらない。だから当機構は、「必要な費用は稼ぐ。それ以上の(たとえば株主の)超過利益は求めない。その稼ぎで、投資家には投資リターンを、従業員の労働には正当な対価を払い、会社としては損益トントンであればいい、という姿勢で、「ソーシャルビジネス」という形式を取っているわけだ。資本主義の大原則である「短期でラクな利益を求める」という重力に逆らう行動をするのは、言うは易く行うは難しで、大半の会社や人には出来ない。それを覚悟を決めて行うことで、はじめて第一の課題をクリア出来るのだ。


その次に、②自分だけよければよいという行動をしないこと、が必要になる。これは、①で書いた、「永久保有が出来る可能性がある事業会社」を、さらに2つに分ける分水嶺だ。どういうことか?事業会社という仕組み自体は、永久保有が出来る可能性を秘めた仕組みだ。だが、現実に永久保有が出来る事業会社はごく少数だ。それは、登山が出来る人が、皆ヒマラヤ登頂が出来るわけではないのと、同じことだ。事業会社が、仕組として、「私益よりも公益を優先する」「自分だけよければよいという利己的な行動をしない(資本主義の原則は利己的な中で、だ)」姿勢を持ち、それを現実の行動に出来るか、が分水嶺なのだ。

これを見分けるには、「時の審判」が有効だ。たとえば、田んぼと米に例えるとわかりやすい。永久に田んぼを維持したいなら、手間と費用をかけて春に耕し、苗を丁寧に飢えて、肥しをけちらずにたっぷりやり、夏に雑草を抜くなどしっかり世話をするだろう。秋に収穫しても、すべての米を食べることなく、来年の種籾として一部を残す必要もある。だが、これが、「自分だけよければよい」という姿勢だとどうなるか?大企業の経営者の任期は平均3年だ。その3年間だけ最大の利益を出すには、あなたならどうする?最後の1年で、今年だけよければ、来年以降は自分は関係ないとしたら、どうだろう?普通、多くのヒトは、費用と手間をもはやかけない。収穫だけして、種籾も残さずに、すべてを自分の利益にするだろう。それは、資本主義の中では正しいこととされるからだ。

だが、そうなれば、自然の結果として、どうなるか?当然、翌年のコメは取れない。つまり、子や孫の世代は、飢えに苦しむことになる。だが、今の資本主義は、「今だけ、金だけ、自分だけ」でよしとされているから、倫理的に自然人として非難されるべき行動が、経営者としては求められ、称賛されることすらある(いまの大企業の経営者のご苦労は、昔の経営者の何倍にも上っているだろう)。これを見分けるのが、上記に述べた「時の審判」だ。資本主義の圧に負けずに、人として正しい行動を、何年出来るか?1年なら、出来る人はそこそこいる。自分の任期の3年だけならやり通せる人もいるだろう(かなり少数だろうが)。問題は、その先だ。経営者が3年ごとに変わる会社で、30年それを続けるには、10代にわたり、異なる人間が、同じ信念と行動力をもって、いかなる環境下でも理由や環境を問わず同じことをやり通さねばならない。それは、10回連続で宝くじにあたるようなもので、現実世界ではとても難しい。経済状況が変わったから、株主が変わったから、etcetc、資本主義の圧は手を変え品を変え重力のように絶えず攻めてくるから、それにサラリーマン経営者が抗うのは、一時的にすら非常に大変だ。それを長年つづけるなら、株主=経営者のオーナー企業である方が、圧倒的に有利だ。しかも、上場などは、絶対にしない方が良い。だから、当機構はオーナー企業の形式を取っており、かつ、上場を目指していない。本当に公益を私益よりも重視し、自分だけよければよいという行動をしない覚悟を持ち、それをきちんと仕組化しない限り、永久保有が出来る環境すら構築出来ないからだ。

さて、上記①と②の2つを苦労して満たして、永久保有が出来る仕組みを築いて企業を承継しても、それはしょせんスタート地点に立ったに過ぎない(それだけでも、ものすごく大変なことだが)。最後に必要なのは、③人生をかけて真剣に、かつ多くの武器をもって賢く、経営することだ。中小企業は本質的に、小さく弱いものだ。その体力は、大企業とは比べ物にならない。経済情勢の変化、技術革新、競争激化、製品の陳腐化、市場の縮小、人材難、自然災害、コロナの流行など、「潰れても仕方ない」理由は、日々山ほど生じる。その中で、一歩でも経営判断を間違えれば、中小企業は簡単につぶれてしまう。それを日々乗り越え、中小企業を永久保有していくには、そこに人生のすべてをかけて取り組む真剣さと、多くの武器を持って賢く経営することが必要だ。

ここでいう真剣さとは、個人的なコミットだけでは足りない。子のため、孫のため、地域のため、国のため、取引先のため、投資家のため、債権者のため、etcetc・・・その中小企業に関連するステイクホルダーの方々すべての人生を引き受ける覚悟を決められるかどうか、だ。さらに、真剣で気合十分な人でも、それだけでは足りない。リソースが足りない中小企業を永続的に経営していくには、賢く経営する必要がある。そのために、当機構は「事業承継プラットフォーム©」という、経営を支援し改善する100以上の方法をパッケージにして、承継先企業に提供している。それは、日々開発され、改善され、そして増加し続けている。中小企業の永久保有とは、万全の準備をして、真剣に、賢く、粘っこく、諦めずに、かつ数十年の長期間にわたって取り組まなければ、到底出来ることではないのだ。

ここまで読んでいただいて、ご理解いただけただろうか?永久保有は、やれば出来る。ただそれは、ヒマラヤ登頂や深海探索、火星への飛行もやれば出来る、というのと同じレベルのことであり、誰にでも出来ることではない。準備と、仕組と、覚悟と、長い時間と、それに人生をかけたチームと、多くのリソースをつぎ込んで、それでも多くの天の時、地の利、人の輪に恵まれなければ出来ないことだ。だから、多くの人々が直感的に、「そんなこと出来ない」と思うのも、無理はない。

ただ、我々は、その全てを理解し、覚悟したうえで、5000社を承継し、永久保有することに、本気で挑んでいる。それがどんなに困難なことであろうと、それ以外に社会に必要な中小企業を残し、子や孫に未来を残す方法はないからだ。

もしこれを読んで、一緒に挑戦しようという熱い思いを持った方がいたら、ぜひ当社にご連絡頂きたい。いつでもHPから受け付けている。方法は、労働参加でも、投資参加でも、業務提携でも、様々な方法をご用意している。また、いまは行動出来ないけれど、気にはなるという方は、ぜひじっくり我々の活動を見ていてほしい。そして、子や孫のために行動しようと本気で思える時が来たら、その時に動いてもらえれば、それでいい。

そして、すでに参加し、走り出しているメンバーと共に、我々は「永久保有」を旗印の公約として、今日も事業承継活動に全力で邁進していこうと思う。

すべては子や孫に、未来を残すために。

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