大企業の幹部クラスの方から、ある程度うちとけてくるとよく聞かれる質問がある。(以前、「きれいごと」について書いたが、もうひとつあるのだ。)
それは、「なぜ君(たち)に、そんな大事業ができるのか?」ということだ。中には、多少攻撃的に、「大企業でトップまでやった私(のようなベテラン)でも考え付かないのに、なぜ君(のような未熟な若造)に、そんな大事業が出来るのか?」というご質問を、ある大企業の代表取締役から頂いたこともある。(※カッコ内は、あくまで筆者の想像です)
そんなときは、こうお答えしている。「私(たち)がやっていると思うかもしれないが、それは違う。これは、いまの時代に必要なことだと、天が決めたことだ。その役割を地上で果たすヒトが必要だったから、たまたま私(たち)が天命として授かってやっているだけだ。」
こう答えると、次に来る質問はこうだ。「なぜ、君(たち)なのか?」
私はいつも、こう応える。(もう100回以上、同じことを答えただろう。が、それだけ気になる人がいるということだろうから、ブログに記しておこうと思う。より詳しくは当機構の書籍に書いてあるので、ご関心がおありのかたはお読み頂ければと思う)
「私は、資本主義の中心にある日本最大手の証券会社で育った。当然に、自身がその資本主義の勝者になろうと(≒金持ちのヒルズ族になろうと)全力で働いた。だが、その最中で突然「このままだと、半年以内に死にます」という大病を患った(おそらくこれが、最初の天命だった)。大手術をして、「まだ君にはやるべき仕事がある」と余命を天に与えられ、九死に一生を得て生き残った。そこで初めて、いくらカネを手にしても、このまま死んだらカネ以外に何も残せないことに気が付いた。自分だけが勝っても、ヒトとして次世代に残せるものがない人生は、意味がない人生だとも強く感じた。(そして、これまで通り我利我利亡者の生き方を続けたら、また大病になり、次は確実に命を取り上げられて死ぬだろう、とも覚悟した。)」
「だから、自分が何をなすべきか、なぜ余命を与えられたのかを探すために会社を辞め、2年間かけて、世界を3周分見て回った(ついでにMBAも取った)。その後、縁あって日本の政府系金融機関で、15年前にいまの事業承継の仕事に就いた。これが天職だと思って、命を燃やして全力で働いた。だが、ここでも政権の転覆により、同社が柱として掲げていた株式投資部門が実質的に閉鎖になるという、まさかの事態に遭遇した(これが2度目の天命だった)。中小企業のオヤジの信頼を得て、その信頼に応えるべく必死に働いても、サラリーマンではその信頼に応えられないこともあると学んだ。」
「だから私は独立して、事業承継問題の全面的解決に取り組むことに決めた。だが、独立した直後に、東日本大震災が発生し、事業計画もスポンサーも、すべて白紙になった。その時に、中小企業の社長の大変さを、これでもかというくらい経験した(これが3度目の天命だった)。そんな中でも、決して志は変えることなく、12年間にわたって活動を続けてきた。その土台の上に、私は今日も事業承継問題に取り組んでいる。」
「もし同じ経験をしたヒトがいたら、そのヒトでよかったのだろう。別に、私(たち)でなくともよかったはずだ。①資本主義の長所も欠点もよく理解し、②若くして死を覚悟してカネより大事なものがあることに気付き、③世界を見て日本の本当の素晴らしさを知り、④それを次世代のために残そうと、私益よりも公益を優先して、⑤全人格・全人生を賭けて、少なくともあと80年間本気で取り組む人がいるなら、だ。」(あなたがそんな経験をしていたら、あなたに天命が下っていたのかもしれない)
そうすると、こんな質問が来る。「なるほど。。。私(当社)にも、なにか出来るだろうか?」
「ある。あなた(や御社)は協力者として、ヒト・モノ・カネの面で5000社の事業承継プロジェクトに参加してはいかがか?それは、十分にビジネスとして出来ることだ。」。
「ちなみに、うちの事業をコピーして事業化しようとするなら、それはお勧めしない(事業のコピーはいまや資本主義の常套手段だし、いくつかの会社や金融機関はそれをしようとしているが。。。)。なぜかというと、儲からず、しんどく、しかもカネがいるからだ。まず、自分の儲けを優先したら、絶対に出来ない。中小企業の役に立つどころか、中小企業の足手まといになるだけだ。そして、最低でも報酬の10倍は働かなければならないから、労働に見合った報酬も得られないのは前提だ(それは、大企業のサラリーマンとは真逆だろう)。特に、リーダーは、社内でも一番下になる覚悟がいる。社員を食わせ、取引先を食わせ、必要なところはケチらず投資し、24時間、365日、360度に向けて全神経を張り詰めて気を使う必要がある。常に先頭を切って社員の100倍働き、自分の身はぼろぼろになってでも一番下に置き、それでも初志貫徹するだけの覚悟と、なにがあっても折れない根性が必要だ。資本主義に出来ない取組をするのに、自分だけが資本主義のいいとこどり(=たとえば、高給取りで、指示だけ出せばいい立場)で、出来るわけがないだろう?それは、資本主義の外に出ないと出来ないことだ。資本主義の中にある大企業で、儲からない、しんどい、カネのかかる事業を、長期間やるというのは、仕組的に無理でしょう?(だから、事業承継問題はいつまでも問題のまま残っているのだが)」
大事業を為すには、自分が一番下になる必要がある。そして、自分が儲けずに、相手をとことん儲けさせる必要がある。だから我々は、大企業向けに無償でサービスを提供し、金融機関向けにも無償でサービスと収益を提供している。そこまでやれば、相手は喜んで参加してくれる(我々は当然にしんどいが、そこはなんとかするしかない)。多くの企業やヒトが協力してくれて、参加してくれる。その大きな共感を集めて初めて、多くの中小企業を次世代に残すことが出来る力が生まれるのだ。本気で事業承継問題の全面的解決を目指すなら、まず初めに、本気で自分が一番下になって働く覚悟がいる。
それでも、ヒトのやることである。感情もあるし、生活もある。薄給なら愚痴が出るのは当然だし、生活にはカネは要る。志の面でも、面接時に言うことと、実際の行動が大きく異なる人も、残念ながらいる。最初は威勢がよくとも、竜頭蛇尾で1年と続かないヒトもいる。だが、それは仕方ないことだ。そのヒトが悪いのではなく、その人にとっては挑戦が大きすぎたのだ。登山好きな人が全員ヒマラヤ登頂を完遂できるわけではないのと、同じことだ。当機構が挑んでいるのは、ムーンショットを超えるような桁違いの課題なのだから。そんな中でも、自らの意思で当機構に参加し、事業承継問題の全面的解決を目指して日々真剣に働いてくれている現メンバーには本当に感謝しているし、今日この瞬間、一緒に活動していることを誇りに思っている。
当機構の活動の全ては、子や孫のために必要な事業を残すためだ。その過程はしんどいだろうが、それが天命である以上、いつか必ず成就する時が来るだろう。そのための天の時、地の利、人の和も、徐々にだが確実に、年々大きくなってきている。
だが、活動する以上、日々の現実の結果がすべてでもある。(過程も大事ではあるが)
だから、今日も具体的な結果にこだわりながら、天命として与えられた我々の挑戦を、一歩一歩進めていこうと思う。