久々に、読み応えのある本に出合ったので、紹介しておきたい。
表題の、バンガード・グループ創業者であるジョン・C・ボーグル氏の著書である。
現代資本主義の矛盾点が、データを使ってとてもわかりやすく整理されている。
基本的には運用会社に関する指摘が多いが、
事業会社に通じる点も多く、
事業承継にも通じる内容なので紹介しておきたい。
たとえば、こんな内容だ。
・価値観と理想を大事に。世直しは1人でも出来る。
バンガードも、最初は異端児扱いされ、業界からも様々な妨害を受けたそうだ。
(さわかみ投信も、創業時は異端児扱いされた。)
だが、自らの価値観に従い、自らが正しいと思う理想に向けて、
「おかしいことの改善」にひたむきに数十年取り組んだ結果、
変わったのは「おかしい」世の中の方だ。
・昔はオーナー資本主義、今はマネージャー資本主義
オーナーは10年、100年の利益を考えて行動する。
マネージャーは3か月の利益を考えて行動する。
資本主義が短期目線になってしまったのは、上記の弊害だ。
そして、その弊害(環境問題、貧富の格差問題、世代間格差問題、等々)
が目立つようになってきている。
(自分の)儲けは短期で取れるだけ、
支払いは長期で少なく(出来れば他人に押し付ける)。
これを資本主義では「効率化」と呼ぶ。
だが、それは人として、社会として正しいことなのか?
資本主義には、「道徳」という概念がない。
オーナー資本主義下ではなんとか自主管理されていたが、
マネージャー資本主義ではもはや絶滅寸前だ。
・昔は所有社会、今は仲介社会
なるべくリスクを取らず、
早く、ラクに儲けることを、
資本主義では「効率化」という。
その効率化を求め、
マネージャーが増えすぎた結果、
現代は仲介者ばかりになった。
事業承継問題も、その一例だ。
仲介者ばかりがどんどん増え、自分の儲けだけを考えて活動している。
そして、社会問題を解決しようという創業者や承継者を
食い物にするような業者まで出てきている。
だから、仲介ビジネスは、20年以上たっても
事業承継問題の解決にはほとんど役に立っていない。
(だから今も大きな社会問題として残っている)
むしろ逆効果になってしまっている例すら出てきている。
不動産の仲介業者も、バブルの頃までは同じ無法状態だった。
今後は、M&A仲介業者も、規制化がされ、淘汰が進むだろう。
そして、仲介業者が生き残るカギは、
どれだけ「道徳」を持ち、時には利益を自制し、
「社会に貢献するビジネス」に変えられるか、になるだろう。
・昔は投資の管理者、今は金集め商人
本来は投資の管理者(Fund Manager)であるべき運用会社ですら、
今は金集め商人(Fund gatherer)になっている。
運用に力を入れるよりも、
新商品の開発と販売に血眼になっているのが、その一例だ。
だが、王道を外れれば、いずれは廃れ、死に絶える。
・仲介者は、(一時的には)強烈に儲かる。
仲介料は、グロスリターンの3/4にも上るフィーを、
資本家のリターンから奪っている。
逆に言うと、
資本家は100%のリスクを負っているにもかかわらず、
仲介料のせいで1/4のリターンしか得られていないのだ。
だが、資本主義の中で、
この目先の大儲けの魅力に抗える人は、そうはいない。
仲介が自己の利益を追求すればするほど、
顧客である資本家のお金が減り、
いずれは管理人としても扱える資産が減り、
長期的にはたこが自らの足を食っているようなものだとしても、だ。
自己の短期利益を道徳よりも(そして本来の職務上の義務よりも)
優先するのが、正しい行為なのか?
それが、道徳的に誤りだというのは、子供ならわかるだろう。
そして、道徳的な天使のか細い声は、万人に聞こえるだろう。
だが、悪魔の誘いは、いつも強烈で魅力的だ。
道徳を無視して悪魔の誘いに乗ってしまうのは、
歴史が何度も証明済の、人間の本性だ。
この本性に抗える人は、ごく少数しかいない。
だが、誰かはやらなければならない。
そして、過去にも誰かがやってきてくれたから、
今があるのだ。
今度は、我々がやる番だ。
先祖が我々にしてくれたように、
子や孫に未来を残すために。
・オーナー不在の資本主義は、いずれ廃れる。
長期目線で事業を考えるオーナーがいなくなれば、
いずれ資本主義は廃れる。
来年の農作物を植えずに、
今年の収穫物をすべて消費してしまえば、
いずれ全員飢え死にすることになるのと同じだ。
それは、資本主義の中では「効率化」と呼ばれるが、
全体的な社会の改善にはつながらない。
一例をあげたが、皆さんは、う思っただろうか?
考えさせられる言葉もあったのではないだろうか?
関心がある方は、ぜひ一読をお勧めする。
最後に、ノーベル経済学賞を受賞した、
ジョセフ・スティグリッツ氏の言葉も、
一つ引用しておきたい。
時代は進んでいる。
皆さんが高校や大学で学んだことも、
そろそろアップデートするときだ。
「自己利益の追求は、経済全体の向上につながっていない。
アダムスミスが指摘した神の見えざる手は、もはや機能していないのだ。
道徳的価値観の衰退した現代では、特に、だ。」
今月は、大規模な銀行との業務提携の発表などもあり、
多忙な月になりそうだ。
だが、目先のことにとらわれず、
価値観と理想を大切に、事業承継に真摯に取り組んでいこう。