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『京セラフィロソフィ』

事業承継についてお話しているある会社の社長から、稲盛和夫氏の著書をお教え頂いた。それが本日の題の『京セラフィロソフィ』だ。早速取り寄せて3回ほど読んだところ、中小企業の経営においても、当機構の経営においても大変参考になり、学べるところが数多くあった。そのため、当機構の中では課題図書に指定し、社員全員で輪読を開始したのだが、当機構のことをご理解頂くにも役立つと思うので、今回は皆様にもその一部をご紹介しておこうと思う。

そもそも、稲盛氏とは何者なのか?まったくご存じない方は少ないと思うが、京セラの創業者であり、DDI(現KDDI)の創業者でもあり、そしてJALの再生を行った経営者である。残念ながら2022年8月に逝去されたが、日本の歴史に残る名経営者であった。また、盛和塾という組織を通じて中小企業の経営改善にも取り組み、自社の経営以外でも大いに日本のために尽くした方であった。日本電産の永守氏と並び、私が尊敬する経営者の1人だ。(その永守氏も、若いころに一時稲盛氏の薫陶を受け、稲盛氏に追いつき追い越すことを目標にしてきたと、同氏の著書にあった)。

その稲盛氏が、苦心しながら社内をまとめるために編み出し、終身経営の中心においていたことが、本書の原点だ。そして、その社内研修向けの内容や講義録を、まとめて出版したのが本著『京セラフィロソフィ』である。(当初は門外不出であったが、2014年に一般向けに出版されたとのことだ)

良著なので参考になる点は多数あるが、本著を読んで、特に感じたのは「奇跡の裏には、冷徹な神算がある。その神算があるから、再現性がある」ということだ。そもそも、京セラの事業の成功だけでも、十分に称賛に値する大事業だ。それをKDDIでも再現し、JALにおいては再生という困難な(マイナスからのスタートは、ゼロからよりも困難だ)ケースにおいても、見事に成果を出した。1発屋は、世の中に多数いる(1発当てるだけでも、人生は難しいものだ)。だが、それを2回も再現し、大きな結果を出した方は、世界の経営史上においてもごく少数だ。その裏には、「徹底した数値化と管理」、そしてどう「ヒトを動かす」かの仕組みづくりにあったようだ。

どういうことか、3点にまとめてご紹介しよう。

まず第1は、「アメーバ」という独自の組織化と管理会計を中心とした、徹底した数値化と管理の仕組だ。これは、会社を最小単位のグループまで分解して、それぞれを事業体として、自主的に経営させる、という仕組みだ。わかりやすくいうと、100人の会社で10の部門があれば、10人×10個の中小企業に分けて、それぞれの部門を経営させながら、連邦経営するということだ。各部門ごとの損益が日々明らかになるので、各部門は自らの損益を最大化しようという動機が働く。それを、継続させることで、エンジンにする仕組みだ。

その一方、個別最適に陥らないように、全体最適の仕組も入っている。いわば、多数のエンジンが暴走しないための、ハンドルのようなものだ。関数的に言うと、全体最適の関数はなだらかな右肩上がりの一次曲線なのだが、部門別の損益関数は逆U字型の2次曲線になる。そのため、各部門が自らのアメーバのことだけを考えすぎると、他が回らなくなり、結果として自らも伸びないというジレンマが生じる。これを、昔からの日本の言葉で言うと、「おたがいさま」「おもいやり」「みんなのため」を持って行動することで解決できるように、うまく仕組化している。これは、昔も今も中小企業の経営では特に重要で(大企業でも重要だと思うが)、かつ有効に機能している仕組みだが、それを自社の成長時において内製化し、いわば「大鯨ではなく、鰯の大群」のような、大きくなっても小規模で小回りが利き、一部が倒れても他は生き残り、全体として成長し続ける、強い生態系をつくりあげる仕組みだ。

第2に、「ヒトを動かす」仕組みだ。ここの要点はただ1つ、「人間として何が正しいのか」を中心に据えて経営する、ということだ。往々にして大事業を為す創業者には、一般人には宗教に見えるくらいの「強力な信条」を持っている方が多い。日本においても、パナソニックなら松下教、本田なら本田教、トヨタならトヨタイズム、海外でもP&GならP&Gウェイと言われるように、多数の例がある。そもそもフィロソフィーとは、哲学のことだ。そして哲学とは、「自然および社会,人間の思考,その知識獲得の過程にかんする一般的法則を研究する科学」と広辞苑に定義されている。まさに、人間として何か正しいのかを経営者が自ら追求し、そこに人生の時間と、心技体すべてを懸けて挑む総合格闘技が、経営なのだ。

ただ手で殴り合うというボクシングにおいても、同じ殴り合いをしていても、チンピラのストリートファイトで終わる人もいれば、世界中を感動させる世界チャンピオンになる人もいる。同じ行動をしても、一流の成果につながるのか、そうでないのか、その分水嶺となるのがこの「信念」であり、その強さであり、そしてどれだけ愚直に行動できるかなのだろう。稲盛氏のJALにおける改革において、まず最初に行ったのは、「幹部社員に、ひたすら正面から愚直にフィロソフィーを伝え続けた」という。その期間は、実に半年にわたったらしい(当時稲盛氏は、すでに78歳であったが、それを除いても圧倒的な行動力だ)。それこそ、話した後には、魂が抜けるようになるくらいの気を込めて、真剣に伝え続けたという。その信念が気力を生み、その気力を通じて、ヒトが動く。それが、奇跡ともいわれるJALの再生につながったのだ。その行動は常に小さな点からはじまるが、やがて大きな波になり、いずれは大海に至るようなものだろう。経営者たるもの、常にその起点になる覚悟と、桁違いの行動力がいるということだ。

第3に、人間として正しい行動をし続けることを通じて、「天運を得る」ということだ(これは、本著には直接記載はないので、私見である)。本著の目次を見ると、まず第一章にこうある。「心を高める」「宇宙の意思と調和する心」「愛と誠と調和の心をベースとする」・・・これらは結局、「(天意に叶う行動をして)天運を得る」ということだ。(晩年、稲盛氏は自ら出家して会得されていたこともあり、表現には若干宗教色があるとみる方もいるかもしれない。字面だけを見ると、なんだか宗教っぽいと感じる方もいるかもしれない。が、それは表現上の問題で、要点ではないため割愛する)。

大義のある夢を抱き、1日1日をど真剣に、信念を持ち、闘争心を燃やし、自ら挑戦し、完璧主義で、成功するまであきらめずに取り組む。それが、社会の役に立つのであれば、必ず天運は味方する。ハムレットの言葉を借りれば、「ヒトが粗削りをし、神が仕上げる」のだ。ジムロジャースの言葉を借りれば、「ヒトは私をラッキーだという。その通り、私はいつも幸運に恵まれる。事前に正しく十分な努力をした者は、必ず幸運に恵まれるのものなのだが。」ということだ。この最後の仕上げが出来るかどうかは、大きな結果につながるか否かを左右する重要なポイントだ。だが、そこは往々にして、どうやっても人知の至らない、天が決める領域なのだ。だから、永守氏も言う通り、「7割は運。その運を引き寄せるために、3割の努力を必死にやる」ことが必要なのだ。

そして、当機構にご相談に来られる会社の方には、こういう稲盛氏の考え方に共感される方が、実に多いのだ。そういう意味では、稲盛氏の薫陶を受けた方が創られた会社は、当機構とフィット感があるのかもしれない。実際、この京セラフィロソフィには、当機構の仕組との共通点がいくつもあった(学べる点も多いにあったので、すでに仕組の改良にも反映している)。まず、当機構が事業承継および承継後の経営において、徹底した各社の数値化と管理の仕組を有しているのは、まさにアメーバ経営の仕組を逆から構築しようとしていることに等しい。次に、当機構は根本的にソーシャルビジネスとして組成しているために、根本的に資本主義下の営利事業を出発点として「動機善なりや、私心なかりしか」を考えて経営するのとは方向性が異なるが、目指している目的地は同じように感じる。最後に、当機構の大義は、「事業承継問題を全面的に解決し、日本の宝である中小企業を子や孫に残す」ことだ。それは、多くのヒトが言う通り、「そんなことできっこない」「大法螺だ」ということかもしれない。その程度のことなら、考えた私が一番よくわかっている。だが、そんな批判が出るのは百も承知の上で、それでも誰かが取り組まなければならない国難なのだ。だからこそ我々は、余人にはなかなか吹けない大法螺を不退転の覚悟で吹き、そこに人生を懸けて取り組む決心を4年前にして、当機構を創業した。たった3人での創業から4期目がこの9月に終わった今、当機構のグループは300人以上の従業員とその家族を養い、年40億以上の売上を上げて日本経済の一隅を支えるグループに育ちつつある(決して満足していないが、半分以上の期間がコロナ下だったことを考えれば、まずまずの成果だ)。

だが、まだ当機構の挑戦は始まったばかりだ。日々増える新しい仲間とともに、1日1日をど真剣に、成功するまであきらめずに、今日も取り組みを続けようと思う。

すべては、子や孫の未来を守るために。

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